2008年10月20日

不定冠詞の意味論

この間の授業で発表した内容を、ブログに掲載します。

1. 中学校の教科書と高校の参考書における不定冠詞の説明
1.1 Sun Shine I (平成17年度版)
・初めて登場したときの文
“Are you a junior high school student?”

“I am an international school student.”

・そのときの説明
a / an: 1つの〜 1人の〜(単語によってa/anと形が変わる場合がある)

・奥付の文法説明
数えられる名詞(dog, book)と数えられない名詞(tennis, water)を英語では区別している。1つ、2つ、3つと数えられる名詞の単数形にはaもしくはanを付ける。anは母音で単語の始まるものに付く。

不定冠詞は、使い方が難しく、よく使われるのにもかかわらず、これ以上の説明はなされていない。また、新出単語のところで、「数えられる」、「数えられない」名詞をわかるように記述してくれていない。(教師がいちいち教えるようになっている?それとも日本語と同じ認識で良いとしている?)

しかし、中1の教科書のProgram 5において、このような文が出てきている。

“Take a deep breath”←「1つの深呼吸」?「呼吸」は、数えられないはず。

→何をもって数えられるか、数えられないかが明示化されていない。

1.2 New Crown I (平成17年度版)における説明

・初めて登場したときの文
“This is a nice kite.”
“It is an animal. A bat.”

・奥付での説明
色々なものに付けられている名前を、名詞という。数えられる名詞のうちの一つを表すときには、aをつける。母音から始まる単語にはanをつける。

しかし、中学校3年生用のNew Crownの教科書では・・・。

“I would like to listen to African music”←日本語では音楽は数えられるのに不定冠詞がない

music(音楽)は、日本語では数えられる。(1曲、2曲、3曲)にもかかわらず、裸の状態で使われている。

→日本語と英語で物の数え方の認知の仕方が違う。その違いを中学校の教科書では教えていない。

1.3 『高校総合英語 Forest』における基本説明
高校の教科書には、取り立てての不定冠詞の説明がなされていなかったので参考書を例に挙げる。

・a / an・・・「1つの~」「ある〜」数えられる名詞の単数形と結びつく
eg. a table
・複数形や「数えられない名詞」とは、一緒に使えない
eg. *a tables *a water

・話の中で新しく出た名詞(新情報)に付く
A: “There is a pencil there.”  B: “It is mine.”

高校でも、どうやら「数えられるかどうか」ということが、重要らしい・・・。つまり、名詞の指す事物が、どういう性質のものかということが大事。

2. 高校の参考書における名詞の分類と、その問題(『高校総合英語 Forest』より)
参考書の説明では、名詞はaをつけることのできる可算名詞と、aをつけることのできない不可算名詞に二分することができるとしている。また、高校の参考書においては名詞を次の5つのカテゴリーに更に細かく分類している。

可算名詞・・・普通名詞 (car, dogなど)、集合名詞 (family, peopleなど)

不可算名詞・・・物質名詞 (iron, waterなど)、抽象名詞 (peace, happinessなど)、固有名詞 (London, America, Kenjiなど)(aをつけることが出来ない)


しかし、この二分法と五分法には疑問が残る。たとえば、普通名詞の単数形のはずなのに、aが落ちていたり、逆に数えられない名詞なのにaが付いていたりする場合も、世の中には見受けられるのである。

(1) After the accident, there was cat all over the road.(可算名詞なのに、aが付いていない)
(2) He did me a kindness.(aが付いている。kindnessは抽象名詞じゃないの?)
(3) I will have chicken /? a chicken today. (chickenって可算名詞じゃないの?)

参考書の説明では、このような例外を応用の部分で、「このようなときもある」といった具合に記載しているが、詳しい理由付けがなされていない。これではaをつけるための基準が恣意的なものとなり、学習者にとっては不定冠詞を使用することが困難となる。
更に、基礎を教えるはずの中学校も、よく使う単語のはずなのに、不定冠詞の機能については詳しくふれていない。また、「数えられる物」が、何を基準にしているのか明示されていないので、可算名詞と不可算名詞の基準があいまいで、学習者は混乱するものと思われる。
本発表では名詞の意味論に触れながら、認知言語学における「有界性」の概念を導入し、名詞の可算性とaの機能について再考したい。

3. 有界性
認知言語学においては、可算名詞(count noun)を、有界性 (boundedness)という概念を導入し、「ある空間領域の中で輪郭が見える(domainの中でboundaryが意識される)もの」と定義している(Langacker, 1987, 1990)。指示物の名詞に有界性があると意識される場合、名詞は可算性を帯び、可算名詞(count noun)となる。他方、指示物に有界性が意識されない場合は質量名詞(mass noun)となる(Langacker, 1987, 1990)。

さらに石田(2002)は、この定義をもう少し平易に解説しており、「ある名詞のあらわしている対象が、境界線によって仕切られているのかどうか」と説明している。この境界線の考え方は、必ずしも現実の事物を指さなければならないわけではなく、また対象の外見的特徴をそのまま反映しているわけでもなく、あくまで話者が言葉を通じて、その対象物をどのように捉えて(認知して)いるかが問題になる。よって、可算・不可算の分類は、認知のあり方で変わるということ。

4. 有界性に基づいた名詞の意味論と不定冠詞
aが名詞に付く条件(石田, 2002)
・ある名詞が表象しているものを、明確に仕切られた有界的な存在として話者が捉えている場合
→他の要素と区別が付くとき

4.1 普通名詞と不定冠詞
(5) (車の絵を見て)This is a car. *This is car.
→carという概念の集合の中から具体的な車を取り出している。

car: {車というものの種類=車という概念の集合}(タイプ
a car: {ある具体的な車}(トークン

不定冠詞aは、ある種類に属する要素の中で、他の要素と区別が付けられる場合に付ける(黒田 & Canty, 1986)。つまり、不定冠詞aは「種類」(タイプ)から、「ある具体的な個別の要素」(トークン)を取り出す働きを持つ。

4.2 集合名詞と不定冠詞
集合名詞にはaをつけることが(基本的には)できない。peopleの例を取り出して考えると・・・。

people: {人々の集合}

トークンとして取り出しても・・・
people:{人々} ←個別に取り出したとしても中身は複数

peopleの意味は、人々、つまりは「人の集合の集合」である。これから個別的に取り出しても中身は「人々の集合」である。よって一つの要素として取り出すことが出来ないのでaを付けることは出来ない。

しかし、a peopleやpeoplesと言える場合もある。この場合、peopleは、「民族」という意味になる。この場合、ドイツ人とかアメリカ人などの、ある一定の条件の下での人々の集合を「一つの単位」としてみている。そこに有界性が生まれるので、aと複数形が容認される(石田, 2002)

同じ理由で、familyも集合名詞であるfamilyとは、「家中にいる人々」という要素の集合、つまり「人の集まり、あるいは種類」を示す。だから、個別的に取り出してもこの場合、familyは「家に集まる人々の集合」だから、複数扱いとなり、aを付けることができない。

しかし、peopleと同じ理屈でa familyともいえる場合もある。この場合、家族を一単位としてみているわけである。このように、集合名詞であってもどこかで有界性が見出されれば、不定冠詞が付きうる(石田, 2002)。

4.3 抽象名詞と物質名詞に不定冠詞が付くとき
物質名詞と抽象名詞は、要素が集まって一つの集合をなしているわけではない。よって集合からの要素の取り出しは不可能なので、単体ではaを付けることができない。

iron: {鉄という種類}→個別的な取出しが出来ない
happiness: {幸せな心の状態}→個別的な取り出しが出来ない

しかし、aが付くのは話者の意識の中で有界性が認識される時なので、その条件が満たされれば抽象名詞と物質名詞にもaが必要になってくる。つまり、物質名詞や抽象名詞にheavyやlightなどといった修飾語句が付くことで、ある種類の中で判別が可能な要素が見えるとaが必要となる。

(6) This table is made of wood.(素材としての木)
(7) Pine is a soft wood and teak is a hard wood.(種類としての木)
(8) She has a deep knowledge of chemistry.(知識の中でも「深い化学の」知識)
(9) He felt a reluctance to accept my offer.(ためらいの中でも、「私の申し出を受けるための」ためらい)

最初にあげた、(2)の例も、「親切」という抽象名詞が、「ちょっとした親切な行為」として要素化されていると考えれば、kindnessにaが付くことには合点が行く。また、教科書のbreathの例も「普通、我々がするような呼吸とは違う深い呼吸」と違いが認識可能なので、不定冠詞を取り付ける。

4.4 無冠詞の場合の名詞の意味
先にも述べたように、aには明確な区切りがあると話者が捉えている場合に名詞に付くとした。では、普通名詞にaが付かない場合はどうなるだろうか?aが付かない場合、話者は「明確な区切りがない」と意識しているのだから、結果として可算名詞は不可算の質量名詞化するのである。

(10) There is a skunk on the road.(道の上にスカンクがいる)
(11) There is skunk all over the road. (道中にスカンクの肉片が散らばっている

(10)の場合、「スカンク」が道という空間で「スカンク」としての形を持って存在しているという解釈になるが、(11)の場合スカンクが「スカンク」としての形をとどめていない状態で存在するのである。つまり、スカンクは体がバラバラでグチャグチャの状態の肉片が道中に散らばっているという解釈となる

同じように(1)の例文はこのように解釈できる。
(1) After the accident, there was cat all over the road. (事故の後、道中にネコの肉片が散らばっていた。)

また、最初にあげた(3)の場合は、aを付けると「鶏の形が維持された状態で食べた」という意味合いになってしまうので文法性が落ちてしまう(ピーターセン, 1988; 石田, 2002)。この場合、食べるのは「鶏肉」で、その形は不定形である。よって、他との区別が付かないので不定冠詞aは付かないわけである。

他にも・・・。
(12) I had a boiled egg for breakfast.(朝ごはんにゆで卵を食べた)
(13) You have got egg all down your tie.(ネクタイのあちこちに卵が付いています。→『卵』としての形がない

5. まとめ
aの意味:「この後に続く名詞は、具体的な形が認識でき、他の要素と区別が付く」という文法符号
これがないだけで、名詞の意味が大きく変わってしまう。中学・高校ともにこの符号の重大性を認識しなさすぎでは?

参考文献
石黒昭博(1999)『高校総合英語 Forest』 桐原書店
石田秀雄(2002)『わかりやすい英語冠詞講義』 大修館書店
黒田和雄、Vincent Canty (1986) 『英語は冠詞で完成する』 リーベル出版
マーク=ピーターセン(1988)『日本人の英語』 岩波新書
Langacker, R. W. (1987) Foundations of Cognitive Grammar Volume1 Theoretical Prerequisites. California: Stanford University Press
Langacker, R. W. (1990) Concept, Image, and Symbol the Cognitive Basis of Grammar. New York: Mouton de Gruyter
posted by ブラック・マジシャン at 16:16| 兵庫 ☀| Comment(0) | TrackBack(0) | 勉強・学問 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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