2009年01月24日

認知言語学と英語教育 〜構文文法の見地から〜 2

2. 構文文法
2.1 認知言語学における「構文」
構文とは、一般的には”there is…”や”it is … for… to do”などの「ある一定の文の型を学習や記述の便宜からリスト化したもの」と考えられている。しかし、認知言語学における「構文」は、一般的に言われるそれとは意味が異なる。認知言語学で構文という用語を使う場合、このような定義となる。

構文(Construction)・・・要素が結びつくパターンが記号としてスキーマになっているもの

生成文法では、文とは決定詞や名詞が組み合わさって名詞句を作り、それが更に動詞句と組み合わさって文を作る・・・といった構成素の積算の結果と考えられている。(合成性の原理

しかし、認知言語学では合成性の原理に基づいて表現の意味を考えることは行われない。その代わりに、ある決められた要素のまとまり(パターン)ごとに、「意味」があると考える。この発想は、ゲシュタルト心理学の考え方から来ている。「ゲシュタルト」とは、全体とは部分の積算ではなく、まず全体がありそして部分があるという考え方である。構文の発想は人間が知覚を行う上では、部分よりも全体が大事なのだというゲシュタルト心理学の考え方を言語にも適用しているわけである(吉村, 2003)。

構文という単位を認めるという主張の根拠として、Goldberg (1995)はこのような実験を行った。

実験手法: 架空の動詞”topmase”を含んだ以下の文を言語学の知識を持たない英語の母語話者10人に提示し、どういう意味なのか解釈させた。

(6) She topmased him something.

結果:被験者である英語母語話者10人中6人が、「彼女は、”topmase”という手段もしくは容態で、彼に何かを与えた」と解釈しようと試みた。

この結果から言えることは、被験者である英語母語話者は未知の単語のtopmaseの意味を文の形全体から推測し、解釈しようとしたことになる。この文は、”S V IO DO”の統語を取っている文であるが、この文パターンのとき、「SガIOニDOヲ 与える」、つまり「所有の移動」という意味を持つということになる。このような、意味を持った一定の言語要素のまとまりを『構文』と呼ぶわけである。

ただし、同じ認知言語学の枠組みの中でも、この単位を積極的に認める立場(Goldberg, 1995など)と認めない立場(Lagnecker, 1995など)があり、意見が分かれている(伊藤, 2003)。また、トマセロ (2008)は、構文という単位の意義を認めながら、「構文は規則ではない」と主張している。なぜなら、構文という単位は、実際の発話用法をパターン化したもの以外の何者でもないからである。このように、構文と一口に言っても一枚岩ではない。

2.2 代表的な構文
では、具体的にどのような構文があるのか、Goldberg (1995)で議論されているものを代表例として挙げる。

(7) 二重目的語構文 (Ditransitive Construction)
Subj V Obj Obj2 (X CAUSES Y to RECEIVE Z; Xが、YがZを受け取る原因となった)
a. Pat faxed Bill the letter. (PatがBillに手紙を受け取る原因となっている)

これは、具体物のやり取りだけでなく、音声などの抽象的なもののやり取りに対しても有効。

b. John tells him the story.(the storyという「音声」のやり取り)

(8) 使役移動構文 (Caused-Motion Construction)Subj V Obj Obl (X CAUSES Y to MOVE Z; Xは、YがZへ移動する原因となる)
a. Pat sneezed the napkin off the table. (Patが、ナフキンがテーブルから離れた原因となっている。

二重目的語構文同様、抽象的なものの移動に対しても有効

b. John tells the story to him.

(9) 移動構文 (Intrans. Motion Construction)
Subj V Obl (X MOVES Y; XはYへ移動する)
The fly buzzed into the room. (ハエが部屋へ移動した)

(10) 結果構文 (Resultative Construction)
Subj V Obj Xcomp (X CAUSES Y to BECOME Z; Xは、YがZとなる原因となる)
She kissed him unconscious. (彼女がキスしたことで彼が気絶した状態になった=彼女が、彼が気絶した原因)

(11) 動能構文 (Conative Construction)
Sub V Oblat (X DIRECTS ACTION at Y; Xは、Yに向かって行為を行う)
Sam kicked at Bill. (SamはBillを蹴ろうとした[実際には当たっていない]=SamはBillに向かって蹴る行為を行った)

cf. Sam kicked Bill. (蹴りが実際に当たっている)

Obl=方向句(Directional Phrase)

2.3 構文という単位を適用することの利点
(12) John sneezed napkin off the table.(ジョーンは、くしゃみでナプキンをテーブルから落とした
(13) John squeezed the lemon into the bowl.(ジョーンはレモンを絞ってボールに入れた
(14) The train squeaked into the station.(その列車はキーキー音を立てて駅に入った
(15) John promised Mary a car. (ジョーンはメアリーに車[をあげること]を約束した)

下線部の動詞単体には、もともとの語の意味に「移動」の概念がない。それにもかかわらず、上記の例文全てに「移動」の意味が想起されている。このように、使用されている文において解釈が異なる場合、従来ではその動詞は多義であるとしてきた(伊藤, 2003)。この考え方だとある動詞Xが使われている文A、B、Cが異なる解釈を持つとすると、動詞Xは、XA, XB, XCという意味を持つとされる。つまり、1つの動詞が意味を複数持つこととなり、更に文脈次第でその意味が無数に増えていってしまう(Goldberg, 1995; 伊藤, 2003)。

構文文法の「一定の言語的まとまりが意味を持っている」という発想を適用し、動詞の多義性の問題を語のまとまり(構文)に求めることで、動詞1つが極端に多くの意味を持つことが回避できる(Goldberg, 1995; 伊藤, 2003)。これが、構文文法の利点である。

2.4 構文の意味と動詞の意味の関係
早瀬 (2002)は、構文の意味と動詞の意味の観点からGoldberg (1995)の構文文法の特徴を以下のようにまとめている (Cited in伊藤, 2003)。

Goldberg (1995)の特徴 (早瀬, 2002)

1. 構文は動詞とは独立した意味を持つ
2. 構文の持つ骨格的かつ抽象的な意味を、動詞の意味によって具現化する
3. 動詞の意味と構文の意味とが融合されて、表現全体としての意味が得られる
4. 動詞の意味とはフレーム意味論的な豊かな情報を含んだ単一の意味である


伊藤 (2003)より

(16) John went to school. (構文の意味:移動 動詞の意味:移動)

(16)で使われている構文は、移動構文である。(9)であげたように移動構文は、「XがYへ移動する」という意味である。構文が持つ、移動の概念を動詞”go”という言語形式で具現化する。このgoも移動を表す典型的な動詞なので、構文の意味と見事に一致する。よって文全体の意味も、「学校へ行きました」という移動の意味が得られる。構文と動詞がそれぞれ独立して意味を持っているが、動詞の意味が構文の意味を具現化しているのである
この見地から考えると、次の例文は物の移動と解釈することは出来ない。

(17) *The bird chirped out of the cage. (構文の意味:移動 動詞の意味:音を出す)
(18) *The dog barked into the room. (同上)

上記の例文は、動詞の意味と構文の意味がマッチしていないため(移動したという意味では)容認されない

しかし、上記3.のような特徴があるため、構文の意味と動詞の意味が一致していない場合でも、そこに構文の意味との因果関係があれば容認される。

(19) The truck rumbled down the street. (構文の意味:移動 動詞の意味:音を出す←移動の結果
(20) The elevator creaked up 3 floors. (構文の意味:移動 動詞の意味:音を出す←移動の結果
(21) The boat sailed into the cave. (構文の意味:移動 動詞の意味:帆をあげる←移動の原因
(22) *The boat burned into the cave. (構文の意味:移動 動詞の意味:燃える)

(19)と(20)の場合、移動の結果音が出たという意味であるので因果関係が成立している。また(21)の場合も、帆をあげることでboatが移動することが出来る。つまり、このsailという行為は移動の原因である。一方で、(22)の場合burnという動作は、移動の結果にも原因にもならないので非文となる。

このように構文と動詞の意味が一致しない場合でも、因果関係があれば構文が意味を補うわけである。

3. 構文文法の見地を利用した説明
3.1 二重目的語構文(SVOO)と使役移動構文(SVO to O)の違いの説明(自分の実践例)
塾講師をしていて、実際に生徒から質問された文法項目の一つが、「SVOOとSVO to O (SVOM)の意味の違い」である。自分も含めて、これらは同じ意味だと教わったが、構文文法の見地ではその考え方は誤りである。以下に自分が行った説明を紹介する。

(23)
a. *John sent America a letter. (S V O1 O2)
b. John sent a letter to America. (S V O M)

(23)の2つの文を提示し、どちらが正しいか少しだけ考えさせた上で、(23a)は文法的に正しくないということを教えた。それは、SVOOの文型(二重目的語構文)は所有の移動を意味するからである。つまり、SVO1O2の文型を取らせる場合はO1に当たるものがO2を受け取り、それを受け取った(所有した)と認識していなければならない。Americaは、意識を持たない物である。よって、所有を認識するものと捉えることは出来ない。だから、この場合所有の認識が生まれないため(23a)は文法的に正しくない。

一方、SVO to Oの形をとる文型(使役移動構文)は単なる物の移動を表す。この構文の意味を考慮に入れてこの(23b)を解釈すると、「Johnが手紙に『送る』という形で力を加えて手紙をアメリカに移動させた」、つまり「ジョーンはアメリカに手紙を送った」という意味になる。

言語学の用語を使わずにあくまで授業で使った用語で、上記のようにSVOOとSVOMの違いを教えたら、その生徒は納得してくれた。英語学の勉強をしていた意義を大変感じた瞬間だった。

3.2 SVOOを取れる動詞と取れない動詞の説明
高校で二重目的語を教えるときに予想される質問の一つが、「tellは二重目的語を使えるのに、sayは何故駄目なのか」ということだろう。

(23)
a. *Mary says John the story.
b. Mary says the story to John.

(24)
a. Mary tells John the story.
b. Mary tells the story to John.

これも構文文法の発想を使えば簡単に説明することが出来る。ヒントは両者の動詞の意味の違いである。

(25) sayとtellの違い
say: 口で音を出すだけ→聞き手がいなくても動作を起こせるので「聞き手」の存在が意味にない
tell: コミュニケーションが成立している→聞き手が必要

sayとtellはどちらも日本語で考えると「言う」であるが、同じ「言う」でもsayは「口で音を出しているだけ」、tellは「誰かとコミュニケーションをとっている」という意味の違いがある。2.4で見たように、動詞の意味と構文の意味を一致させなければならないならない。二重目的語構文は、所有の移動の意味がある。ここでは、音という抽象的なものであるが、この構文を使うには聞き手側がその音を受け取ったという認識が必要である。

sayは、聞き手側が認識していなくても動作として成立する。よって、聞き手側の認識が動詞の意味にはない。だからsayは二重目的語構文の意味とマッチできないので、その構文の動詞として採用されない。

また、聞き手を必要とする同じtellを使った文でも構文が違えば意味にわずかな差があるため、環境次第で容認できるかどうかが変わる。その例を次に挙げよう。

(26)
a. *Mary told John the story, but he was not listening. (聞き手側がstoryを認識しているのでアウト)
b. Mary told the story to John, but he was not listening.(聞き手側がstoryを認識しているとは限らないのでOK)

(26a)では、主節で二重目的語構文を使用したためstoryの受信の意味が成立してしまっている。だから、後になって聞いていなかったと訂正を行うことが出来ない。一方、(26b)では単なる物の移動の意味の使役移動構文が使われているので、主節で受信の意味が成立しているとは限らない。よって、「聞いていなかった」と修正可能なのである。このように微細な違いではあるが、文を書くときに少々気をつけなければならない。

このように、言語学の知識を多少持ち合わせていれば、学校文法での素朴な疑問もすぐに解消させることが出来る。また、より正確に文を書いたり言ったりすることが可能になり、ネイティブスピーカーの言語感覚を知り、それに近づくことが出来る。このように、ちょっとしたスパイスとして言語学を知っていれば、英語の直観を養うことが可能となるのである。

4. まとめ
4.1 認知言語学と構文論のまとめ
本発表では、認知言語学の言語観にふれて、その文法観の一つである「構文文法」を概観した。その結果、単語だけでなく、語の組み合わせ方のパターン(構文)自体にも意味があるということがわかった。

・認知言語学の言語観→用法基盤の言語観。一般認知能力を通して事物を経験し、一般化してスキーマを作り、そのスキーマに具体物を当てはめて世界を分節する

・構文文法の文法観→文とは構成素の意味の積算の結果ではなく、ある一定の要素のまとまり(構文)もスキーマを持っている。構文の意味と動詞の意味が相互に関わりあいながら文を作り出す。

・SVOO(二重目的語構文)とSVOM(使役移動構文)の意味の違いのまとめ
3.で具体例を挙げて、二重目的語構文と使役移動構文の意味の違いを考え、実際に生徒に教えた際どのように生かしたか一例を紹介した。尚、双方の構文の意味をスキーマ化して図示すると次のようになる。

(27) 二重目的語構文(α)と使役移動構文(β)のスキーマ

二重目的語構文と使役移動構文のスキーマ

使役移動構文[NP1 V NP3 Obl NP2]NP3の領域間の移動。NP2がNP3を受け取ったと認識しているとは限らない。(物の領域間の移動)

二重目的語構文[NP1 V NP2 NP3]間接目的語に当たる名詞句(NP2)が直接目的語に当たる名詞句(NP3)を受け取ったと認識している。(所有の移動)

4.2 教師にとっての言語学
学校文法の枠組みだけでは説明しきれていない素朴な疑問を解決するための一つの「視点」。難しい議論が出来なくても、ちょっとしたことを知っているだけで、生徒への説明をするための幅が広がる。

4.3 学び続けるということ
本授業の先生が、初回に「教師は常に学び続ける姿勢を持つ必要がある」とおっしゃっていたが、それに関連して自分が考えたことを述べる。

英語学を「山を見る」メタファーを使って説明すると、このように捉えることができると思う。

英語を捉えるということ

我々は、英語という巨大なつかみどころの難しい抽象的な山を、ある一つの視点から眺めている。たとえば、教師だったら「学校文法」という視点、言語の習得についてUGがあると支持するならば「生成文法」という視点、一般認知能力で解決できると考えるならば「認知言語学」という視点・・・といった具合に、言語という現象をある一つの視点から切り出し、それを記述して、なぜそうなっているかを説明しようとしている。それが「理論」である。

しかし、視点によって山の形は様々なものに変化する。それと同じように、理論というものが一つの視点から現象を切り出して描写し説明したものならば、必ず見落とされている点が存在する。言語学の話題で言えば、生成文法ではメタファーの説明は出来ないし、認知言語学の構文の説明の仕方では言語の深層構造が説明できない。だから、山の全体像を捉えるには多角的な視野にたって山を記述し、それらを総括して見る必要がある

英語、ひいては言葉というものは学者でさえも未だに全体像がつかめず、様々な議論がなされている。先生のおっしゃった「学び続ける」ということへの自分なりの考えは、「山の全体像を出来るだけ正確に把握しようという態度をもち、実際にそれを実践すること」とである。

教員の卵として、英語だけでなく、学習、教育や人間性といった山に対しても同様のことを行うようにしていきたいと考える。そのために、色々な人の話を聴いて、その人の視点からものを眺めたり、本を読んだり、現場に出て実践したり、時には自分の視点を提示し議論したりして教育や言葉といった様々な山の全体像をつかもうとすることをし続けたいと思う。これが、自分の教師の卵としての矜持である。

参考文献
伊藤健人 (2003) 「動詞の意味と構文の意味 -「出る」の多義性に関する構文的アプローチ‐」 『明海大日本語第8号』
児玉徳美 (2003) 「意味と形式」 『国際言語文化研究所紀要』14巻1号
早瀬尚子 (2002) 「構文解析の中核としての動詞−構文理論から見た動詞」『言語』Vol.31, No12
マイケル=トマセロ (2008) 『言葉をつくる 言語習得の認知言語学的アプローチ』 慶応義塾大学出版会
吉村公宏 (2004) 『はじめての認知言語学』 研究社
Goldberg, A. E. (1995) Construction Grammar Approach to Argument Structure. Chicago: The University of Chicago Press
Langacker, R. W. (1987) Foundations of Cognitive Grammar Volume1 Theoretical Prerequisites. California: Stanford University Press.
Langacker, R. W. (1990) Concept, Image, and Symbol the Cognitive Basis of Grammar. New York: Mouton de Gruyter
Tyler, A. and Evans, E. (2003) The Semantics of English Prepositions. New York: Mouton de Gruyter
posted by ブラック・マジシャン at 22:13| 兵庫 ☔| Comment(0) | TrackBack(0) | 勉強・学問 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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