4. 結論
本レポートは、「『いる』の尊敬語は『いらっしゃる』」であるという主張を「おられる」と比較して、批判的に考察した。その結果、実際のデータを見ると「おられる」も広く使われていそうであり、かつ昔からの用法を挙げて「おられる」を完全に正当化する立場も存在することがわかった。

ただし、「おられる」を尊敬語、謙譲語①、謙譲語②などといった機能面や自動詞および他動詞などの文法的な特性から考えると、合理的でない部分も孕んでいるグレーな存在であることもわかった。そして、「おる」の意味を実際に即してもう少し考えるべきであるということもわかった。

このように、昔からあることにはあるのだけれども、機能面と文法的に考えればグレーゾーンの部分がある「おられる」を聞けば不快感を示す人間もいるはずである。よって、「おられる」よりも安定して受け入れられている「いらっしゃる」を使ったほうが無難ではないかと思うので、「おられる」をある程度認める形の論考を行ったが、少なくとも私は「いらっしゃる」を授業などの公の場では優先して使用するように心がけたい。

私は英語教員志望であるが、言葉を子どもに対して教える立場の人間であることには変わりはない。言葉は、英語や日本語という枠組みを超えて、人間関係を作るための橋渡しをする大事な道具である。だからこそ、「昔ながらの不条理な頑固親父理論」を振りかざしてまで保守に走ろうとする規範文法のような立場もあるし、おかしいところは変えてゆき、変化を受け入れようとする認知言語学のような立場もあるのである。

昔の人々が「言葉は言霊」と言ったように、その人と人とをつなぐありがたい道具を大事に使用し見つめる必要がある。そのために、今ある言葉や昔からある言葉を実際に即しながら繊細に捉えて、少なくとも「昔からあるから」とか「今流行っているから」と言って、何でもかんでも無批判に受け入れることはしないでおきたい。

参考文献
宮内庁(2005) 『皇后陛下お誕生日に際し(平成17年) 宮内記者会の質問に対する文書ご回答』 http://www.kunaicho.go.jp/okotoba/01/kaiken/gokaito-h17sk.html Accessed on August 3rd in 2008
諏訪哲二(2007) 『学校のモンスター』 中公新書ラクレ
萩野貞樹(2005) 『みなさん、これが敬語ですよ。図でよくわかる敬語のしくみ』 PHP文庫
言語生活論の講義資料

書いてみた感想
このレポートは夏休み直前、修士論文中間発表前に書いたものです。修士論文の発表を控えていたのですが、ちょっと調べてみたら結構おもしろかったので頑張って書きました。

修士論文を書くにあたって基本的な要領をつかめてきた時期なのでいろいろなことに気を遣って書いています。修士論文と比べてしまうと短いレポートですが、以下のことは守るようにしました。

1、尊敬語、謙譲語①、謙譲語②などの概念規定や言葉の定義をはっきりさせる。
2、一度はっきりさせた言葉の定義は恣意的に曲げたりせず、本文中での一貫性を確実に持たせる
3、過去の文献に目を通し、どのような議論が行われているかを正確に捉え、何が欠点なのか指摘する
4、実際のデータを身近なものや自分が読んだ書籍から取ってくる
5、先にあげた概念規定を実際のデータや過去の文献から照らし合わせながら、独自の論を組みあげていく

こういったことを守っていけば、基本的な論文フォーマットは固まります。特に言葉の定義や概念規定がぶれてしまうと、論がめちゃくちゃになってしまいますので気を付けました。

慣れるまでは時間がかかるし、何回すり合わせても穴が出てきてしまいますが、安定した議論を行うには上記のことはどうしても必要なことだということがわかりましたね。この知見は修士論文に大いに生かされました。